
【放送日時】
2017/3/18
【TV局】
テレビ朝日系
【番組】
平成28年度の主役が大集結!古舘伊知郎ショー~THE・マッチメイカー~
【カテゴリ】
発言・失言、出来事
【発言者】
桂歌丸(80)
古舘伊知郎(62)
【発言内容】
(放送開始から48分後)
【桂歌丸落語会(神奈川県横浜市)】の楽屋にて、古舘アナと歌丸の対談。
古舘「師匠、お加減は今日はいかがですか?」
歌丸「あんまり良くないんですけどね。でも陰気な顔ばかりしていられないもんですから。
なんですか・・・去年の暮から今年の正月にかけて肺炎で入院して。それ以降あんまり良くないんですよ。
肺は良くなっているんですけど、息を吸うのがすごく苦しいというのは変な言い方ですけど、苦しいですね。
息が吸えないというのは、金がないより苦しいですね」
古舘「はぁ・・・そうですよね」
歌丸「だからこんな酸素吸入やりっぱなしなんですがね」
古舘「そうですか。そういう最中、高座を前にしてお話を聞くのは申し訳ないような気がするんですけども」
歌丸「ああ、いいえ」
古舘「今日は正直言いまして、これもまたちょっと生意気な言い方かもしれませんが、勉強させていただこうと」
歌丸「何をおっしゃいます?勉強するのはこっちのほうですよ」
~落語への覚悟~
古舘「高座に上がってお話をされるというのは、歌丸さんにとっては人生そのものですか?もう」
歌丸「ですね」
古舘「辞めとこうと思うときもあるはずだと人間だから思うんですけど、体調すぐれないとき」
歌丸「実はですね、ついこの間まで“辞めよう”と思ったことはこれっぽちもないんですよ。
ものすごい苦しい時代もありました。
でもね、本当に自分で好きで選んだ道ですからね。
好きで選んだ道を自分で辞めたなら自分自身の負けになると思って。
ほんでこう歯くいしばりました。
ところがですね、今言った通りこんなような状態になっちゃって、これでやってっていいのかしら?
正直言って今 悩んでるところなんです」
古舘「そうですか」
歌丸「はい。あの・・・お客様方に失礼になるんじゃないか。
あるいは、みっともないんじゃないか。
一番の問題は、これは病気ばかりじゃない。年もあると思うんですけど。
噺の覚えが悪くなっちゃったんです。
ですからね、本当に古舘さんの前ですけれども、今悩んでる最中です」
古舘「そうですか」
歌丸「だから・・・これ言ったのは初めてじゃないですか」
古舘「いや・・・弱い80歳になられて、“苦しいけど体調悪いけど古舘くん、やるだけやるんだよ”ってスッキリされてることをお話されるのか?ってちょっと僕予想してました。
完全に予想外れました。悩んでらっしゃる?今」
歌丸「悩んでます。ですからお話したのはカミさんと古舘さんだけです。
それだからカミさんと相談したんです。
“こういうあれで今こういった状態がずっと続くんで、俺もう引退しようと思う”って言ったら
“お父さんの思うとおりにやりなさい。ただし、お父さん落語があるんだから、寄席があるんだから。
それも全部辞めちゃうとつまんないじゃないか。
そこ、お父さんよく考えて”とは言われてる」
古舘「そうですか」
歌丸「こんな大きな声が出るんですよ。体具合悪くても。これで声が出なかったらミイラと同じようなもんですから」
古舘「歌丸さんね、15歳で噺家さん(古今亭)今輔(享年78)さんに弟子入りされましたよね。
66年になりますか。キャリア。
僕びっくりしたのは“苦しいことばっかりなんだ”っておっしゃったことありますよね。
普通、噺家さんながら“いやぁ~楽しいことも苦しいことも、苦あれば楽ありで~”っておっしゃるかなと思ったら
“苦しいことばっかりだよ66年”うわっ、すごいことこの方言い切るんだって思ったんです、正直」
歌丸「ホントに苦しいことばかりですよ。今も言うとおり現代のアタシの場合は何が苦しいか。
噺を覚えるのがすごく苦しいですね。
ただ、喜びもあります。その苦しんで覚えた噺を高座でやってお客様が聞いて下さる、あるいは笑って下さったらこれは嬉しいですね」
古舘「もうここまで僕から見たら完成品に思える歌丸さんも“こうしなきゃいけない”と思って、66年間苦しかったんだよということは・・・。
逆にその芸の苦しみを、人生の苦しみを。
人生って苦しいと思うんですね、生きていく限り。人生の苦しみを楽しんじゃうみたいなところの。ずっと自己演出されてきたのかなと思いました。
どうせ苦しいんだから」
歌丸「ホントは楽しめばいいんですけれども。ですからある方に言われたことがあるんですよ。
“なんでそんなに苦しんでんだ?”って言われたんです。
これは言いました。
“楽になりたいから苦しんでるんだ”
“じゃあ、いつになったら楽になるんだ?”
“目つぶったときだ”って言いました。
“目つぶってまでは苦しい思いをしたくない。だから目つぶるまでは苦しい思いをする。目つぶったらもう楽になる。
だからずっと苦しい思いをしてるんだ”って言いましたよ。
ただね、今年で81歳になりますからね、辞めようかどうしようかって迷ってるうちにあっち行っちゃうと思うんです」
古舘「それが一番楽なあれかもしれませんね」
歌丸「もう一つね、欲の深い考え持ってるんです。
“桂歌丸 引退興行”
生涯それで回っていこうかと。儲かると思いますよ」
古舘「引っ張るだけ引っ張ってね。どれだけロングランなんだって」
歌丸「“いつまで引退してるんだ?”ってね」
古舘「でもやっぱり歌丸さんは当たり前のことですけど、ものすごいお話が上手いから、パッと下方ぶりに今ドア開けて楽屋でお目にかかった瞬間と別人です。
お話になってるときって、ものすごくお元気でハツラツとされてるから」
歌丸「だから今も言う通りこっちが沈めばお客さんも沈んじゃいますから。
やっぱり元気なところ見せなきゃなんないと思うんですがね。
ただ幕が閉まれば、あそこでこんなんなってますから」
古舘「やっぱりそうですか」
~後輩に伝えたいこと~
古舘「あの・・・。
今年に入って2月だと思いますけど、記事を拝読したときにですね。
歌丸さんがね、これからの更新
若い人たちの噺家に言っておきたいことが一つあると。
“落語を壊さないでくれ”と。
これはどういう意味なんでしょうか?」
※桂歌丸、80歳。“アタシが目瞑ったら、あとは勝手にやっとくれ”(週刊ポスト2017年2月24日号に掲載された記事より)
歌丸「極端に言いますと50分から1時間かかる落語を20分で終わらして。
“俺は器用で器用だ”って言ってる人がいる。そんなもんは器用じゃないです。ごまかしなんです。
それから、イジって良い落語とイジって悪い落語があると思うんです。
新しくこしらえるのはいいんです。新作として。
でも、できてる噺をそうやってイジりまわさないでもらいたいですね」
古舘「守るべきところは守る。変えるべきところは時代に合わせて変える。
そこを見極めろってことなんですね。
でもね、歌丸さんの精神性でいいますと私、こういう世界があるなと思ったのは“ジャングル大帝”が好きで。
ジャングル大帝はレオが自己犠牲にしてヒゲ親父に自分の肉を食べさせて生かす。
そして、自分の毛皮。体毛を着させて生きながらえさせる。
これに感動したっておっしゃいましたよね?前に」
歌丸「とにかく漫画見て泣いたのはジャングル大帝だけです」
古舘「泣いた」
歌丸「泣きました。涙が出ました」
古舘「でも今こうやって高座に上がられているのも、どっかに身を犠牲にしてでもやり続けるという所があるのかなってちょっと重なったんですけどね」
歌丸「どうなんですかね」
古舘「若い芸人さんに噺なら残せるからレオみたいにって。なんかそんな感じないですか?」
歌丸「あります、それは」
古舘「ありますか」
歌丸「それはあります。だからこそ“土台をきっちりやってくれ”って言いたい。
土台がいい加減だと上のものもいい加減になっちゃうますから。
ですから若い方が使ってる“食べれる”って言葉がありますけど、違うんですよ。私たちは“食べられる”だと。
落語家だと若い方が“高座で食べれる”
私は怒鳴りますね“何だ?食べれるとは!らの字が抜けてんじゃないか。食べれられるだ”
とにかく土台だけはちゃんとしてもらわないとダメだと思うんですがね」
古舘「大事なお話ですね。
どっかで語ってるんですよ、歌丸さんがね“僕は噺家だから、噺は若い人たちに遺せる”と。若い噺家に。
だからレオと同じで。
レオがやったことと同じで“私が死んでから、その私が託してあげた噺を着て欲しい”」
歌丸「着て欲しいことも着て欲しいですけど。
ただし、間を教えることができないんです。
人によって間は全部違います。
ですから、私たちの商売。自分の間を早くこしらえた人が勝ちになりますね。
だから噺はいくらでも着せることができます。
ところが間を教えることはできない。
ですから早くその間をこしらえてくれ。それが一番我々にとってはプラスになる」
古舘「着せることはできるけど、着こなしまでは教えられない」
歌丸「教えられないです」
古舘「間を使えと」
歌丸「話し上手って言葉があるじゃないですか。私は決してそうじゃないと思うんです。
聞き上手というのが本当の言葉だと思います。
人の聞くのを上手い人っていうのは喋らせると上手いですよね。
ところが人の言ってることを聞くのが下手な人は喋らせても下手ですね。
だから聞き上手っていうのは本当の言葉じゃないかと私は思ってる。
できる限り人の話は聞くようにしてますけれども」
古舘「歌丸さんやっぱり今日ここにきた甲斐がありました」
歌丸「そうですか」
古舘「今も苦言として聞きました。ついつい喋っちゃうんです、いい年して。まだ聞き上手になれてない自分がいます」
歌丸「いえいえ、私だってそうですよ」
古舘「もう今日は本当にお話聞けて嬉しくて、しかもこの後高座も聞かせていただけるっていうんで。ホントに嬉しいです」
歌丸「いえいえ、ありがとうございます。私もこれから人の役に立つような勉強しなくてはなりませんけど」
古舘「ホントにまだまだそう思い続ける」
歌丸「まだまだ。それ捨てちゃったらもう噺家としてゼロになっちゃう。
やっぱゼロになりたくないです」
古舘「そうですね。ありがとうございます」
歌丸「ありがとうございました」
引退について悩んでいる歌丸だが、古舘アナとの対談で更に前向きの姿勢を見せた。
(放送開始から1時間後まで)